<出会い>
1991〜1992年という、今思えばとてもエキサイティングな時期を、東京は渋谷のHMV(まだOPEN直後だった。)で働いていたというのは、とにかくラッキーだったとしか言いようがない。
まだ当時は、店内に流す音楽も店員の自由であり、今よりもずっとにフランクな雰囲気のお店だった。1FのCHARTコーナー(毎日ありとあらゆるシングルが入荷してくる、とても楽しい売り場!!)のバイヤーと仲が良かったため、日々入荷してくるシングル、とりわけUK物はひたすらチェックしていた。
店内では朝の10時から、リリースされたばかりのスローダイヴのアルバムがかかっている。もうしばらくすると、しかめっ面したBlack/Soulのバイヤーがやってきて、Crystal
WatersとかHeavy D. & The Boyzなんかのヒット曲に替えていくのであろう。それもすぐにまた、ライドやジーザス・アンド・メリーチェイン、はては808
STATEやThe Shamenに替わっていく。
そんなある日、CHARTコーナーのバイヤーが、「これスッゲー良いから聴いてみな。」っと言って聴かせてもらったのが、ブラインド・ミスター・ジョーンズの2ndシングル「Crazy
Jazz」だった。UKバンド特有の陰鬱なコード進行に炸裂する轟音ギター。これだけなら当時はいくらでもいたスタイルだ。しかしそこにフルートの音色が絶妙にかぶってくる!
とにかく、頭の中で何かがハジけたような気がした。
すでに大絶賛を受けていたライドに似てはいるが、それよりもさらに青臭いメロディとスローダイヴ的な音空間の広がり具合(実はスローダイヴが深く関わっていると知ったのは、随分経ってからだった。)、そして何よりもその音の中に絶妙に組み合わされたフルートの素晴らしさに心奪われた。
そしてB面の「featherweight」。この手のバンドでインスト曲というのは、決して珍しくはなかった。しかしこの曲で大々的に使われているフルートと、バグダット・カフェやツインピークスでのメインテーマばりの、なんともいえないゆったりと流れていく切ない感じに、もう完全にヤラれたと言って良いだろう。やたらとこの曲を人に薦めていたし、後にmoony
moorというバンドをやっていた時は、しょっちゅうオープニングSEに使っていた。
その後1stシンングルは、自分でオーダー&買いというレコード屋の特権を乱用して入手、1stアルバムのリリースインフォが出てからは、毎日のようにいつ入荷するのか聞きまくっていた。ようやく入荷した1stアルバム「Stereo
Musicale」は1枚のみ。世間的にはまったくの無名アーティストであり、しかもCherry RedというUKインディレーベルからのリリースでは当然のことだ。誰も気にも留めないこの1枚を自分が買った後、再び店頭にそれが並んだのは随分経ってからだった。
こんな感じで1人盛り上がっていたわけだが、肝心の人気の方は散々で、当然日本盤など出る訳もなく、この1枚のアルバム以降、まったく音沙汰なく消えていってしまう。見ればわかるのだがこのアルバム、ジャケが酷い。ハッキリ言って酷すぎる。名前を知らなかったら、間違いなく手に取るハズのないような装いだ。なんでもメンバーの友だちが描いたそうだが、それにしても酷い。初期のブーラドリーズのジャケも、メンバーの友だちとかが描いていたが、あちらは素晴らしかったのに、なんで彼らはこうなるのか。
結局まだネットなんかもない時代、まったくの情報のなさに、彼らがいったいどういうバンドなのか、その後何をしているかもよく分からないまま、月日は流れていった。今思えば、当時の行き場を失った感情(自分が一番好きなバンドの、あまりの認知度の低さ、評価のされなさ、情報のなさ、その他もろもろ)が、昨今の自分のシューゲイザーに関する原動力になっていたようにも思う。
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